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アブダクション(abduction)とは何か?仮説と発見の論理を解説

2023年10月10日

アブダクションの概要

アブダクション(abduction)は、哲学、論理学、人工知能、科学、推論理論などの領域で重要な役割を果たす推論の一形態です。
アブダクションは、不完全な情報や観察された現象から最も合理的な説明や仮説を生成するプロセスです。この推論形式は、日常的な問題解決から科学的な発見、医学的な診断、機械学習、パターン認識など、さまざまな分野で幅広く応用されています。

このアブダクションは科学的発見や創造的思考において重要であり、注目されています。
ここからは米盛裕二の『アブダクション: 仮説と発見の論理』を中心に、アブダクションについて解説していきます[1]米盛裕二『アブダクション: 仮説と発見の論理』勁草書房、2007年、以下『アブダクション』と略記。

アブダクションはなぜ必要か?

ここからはアブダクションがなぜ必要なのかを解説していきます。

推論の形式

アブダクションは推論の形態の一つですが、アブダクションのほかには演繹帰納があります。

推論について詳しくはこちら

推論とは、いくつかの前提(既知のもの)から、それらの前提を根拠にしてある結論(未知のもの)を導き出す、論理的に統制された思考過程のことをいいます[2]前掲『アブダクション』2頁。

推論については、下記の記事もご参照ください。

アブダクション、演繹、帰納の違いをまとめると以下の表1のようになります。

推論形式特徴用途
アブダクション不完全な情報から最も合理的な仮説を生成する。
観察された事実に基づいて説明を提供。
不確実性の高い状況で使用。
新しいアイデアや理論の創造。
複雑な現象の解明。
問題解決の出発点。
演繹一般的な原理から具体的な結論を導く。
論理的に正確で確実性が高い。
前提から結論を導く。
論理的な結論の導出。
数学的証明。
論理的推論の形式。
帰納個別の観察から一般的な法則を推測。
多くの事例から共通の傾向を抽出。
一般化に基づいて予測を行う。
一般的な法則の発見。
統計学、科学的仮説の形成。
傾向の特定。
表1:アブダクション、演繹、帰納の違い

表1のように、それぞれの推論の形式には特徴があり、どれが優れていると言う訳ではありません。
その中で、今日アブダクションが注目されている理由は何なのでしょうか。その理由を演繹と帰納の限界から解説していきます。

演繹の限界

演繹は論理学で最も重視される推論の形式です。演繹を用いる場合、前提が正しく、そこからの論理展開が正しければ、結論も正しくなります。

しかし、演繹には前提から導き出せること以上のことは言えないという限界があります。つまり、与えられた情報から確実に言えること以外は導き出せません。

帰納の限界

帰納は、特定の具体的な観察やデータから一般的な原理、法則、またはパターンを導き出す推理の形式です。
帰納を理論の構築に使うこともありますが、「経験をいくら集めても理論は生まれない」というアインシュタインの言葉のとおり[3]前掲『アブダクション』39頁。、いくら経験や事例を集めても、理論はなかなか生まれません。帰納だけでは理論は構築しにくいというのが帰納の限界です。

演繹と帰納の橋渡しをするアブダクション

以上のように、演繹には前提から導き出せること以上のことは言えないという限界があり、帰納にはそれだけで理論は構築しにくいという限界があります。
演繹と帰納を橋渡しし、新しい理論の構築に使えるのがアブダクションです。

アブダクションにより仮説を立て、それを演繹によって明確にし、それを帰納によってテストすることによって、新しい理論を発見することができます[4]前掲『アブダクション』105頁。

このように、アブダクションだけが新しい理論を発見することができるため、この推論は「探究の論理学」「発見の論理学」と呼ばれます[5]前掲『アブダクション』5~8頁。

アブダクションの推論の形式

パースによるアブダクションの定式化

アブダクションでは、「説明仮説(explanationary hypothesis)」を使って推論を行います。
アブダクションの推論の形式を、アメリカの哲学者であるチャールズ・サンダース・パースは以下のように定式化しました[6]前掲『アブダクション』53頁。

パースによるアブダクションの定式化

驚くべき事実Cが観察される、
しかしもしHが真であれば、Cは当然の事柄であろう、
よって、Hが真であると考えるべき理由がある。

ここに登場するHが説明仮説です。
つまり、何かの珍しい事実に直面した時に「説明仮説が正しいなら、その事実は当然だ」と考えられるような説明仮説を立てて、話を展開します。
いうなれば、アブダクションは説明仮説を発案するという「洞察」とそこから論理展開をしていくという「推論」の2つの段階から成り立っています[7]前掲『アブダクション』68頁。

アブダクションの例

例を挙げて説明していきましょう。
たとえば、山で魚の化石を発見したとします。この時に、「かつてこの山のあたりまで海だった」という説明仮説を立て、「かつてこの山のあたりまで海だった。だから、山で魚の化石が見つかった。」と推論するのがアブダクションの手法です。

アブダクションと帰納の違い

このように、アブダクションはある観測データ(驚くべき事実)から説明仮説を形成して推論を行います。
しかしそれは、帰納でも同じであるように見えます。アブダクションと帰納の違いはどこにあるのでしょうか?

帰納は観測データにもとづいて一般化を行う推論です[8]前掲『アブダクション』84~85頁。。言い換えるなら、観察したものと類似の現象の存在を推論します。
たとえば、「大量に魚の化石が発見された場所はかつて海であった。この山でも大量に魚の化石が発見されたから、ここもかつては海だった」と考えるのが帰納です。

一方で、アブダクションは先ほど紹介したように、山で魚の化石を発見したら、「ここはかつて海だったから(説明仮説)、ここに魚の化石があった」というように考えます。つまり、観測データを説明するために、説明仮説を立てて推論を行います。

説明仮説の基準

アブダクションでは説明仮説を立てることが推論の鍵になりますが、説明仮説は複数考えられることがあります。
たとえば、先ほどの「山で魚の化石を見つけた」という事実に対しても、「この地域がかつては海であった」という説明仮説のほか、「かつて魚市場であった」「かつてゴミ捨て場だった」というように、複数考えられます。

この中で正しいと思われる説明仮説を選ぶことも、アブダクションで推論をする上では大切です。
アブダクションを用いる上では、説明仮説を以下の4点に注目して選ぶことが大切です[9]前掲『アブダクション』70~72頁。

  • もっともらしさ
  • 検証可能性
  • 単純性
  • 経済性

つまり、説明仮説はもっとも理にかなっているものを選ばねばならず(もっともらしさ)、それは実験的に検証可能でなければなりません(検証可能性)。
そして、選ぶ説明仮説は他のものに比べてもっとも単純なものでなければならず(単純性)、実験をするのに費用やエネルギーが少ないものを選びます(経済性)。

アブダクションの限界

ここまで説明してきたように、アブダクションでは他の推論の形式にはない、探究や発見の推論が可能です。
しかし、アブダクションもまた万能の方法ではありません。ここからはアブダクションの限界について解説していきます。

論証力の弱さ

アブダクションは演繹、帰納に比べると最も論証力の弱い推論の形式です。
アブダクションは未知について推論するという目的のために、後件肯定の誤謬の状態になっており、後件である事実が正しいから、前件の説明仮説も正しいという論法になっています[10]前掲『アブダクション』63頁。
そのため、アブダクションは説明仮説を用いて、直面した事実に対して「もっとらしさ」を与えてくれますが、確実にアブダクションで導き出された結論が正解だとはいえません。

参考

書籍

  • 米盛裕二『アブダクション: 仮説と発見の論理』勁草書房、2007年

Webページ

  • //ja.wikipedia.org/wiki/チャールズ・サンダース・パース(2023年10月4日確認)
  • //ja.wikipedia.org/wiki/カール・ポパー(2023年10月4日確認)

1米盛裕二『アブダクション: 仮説と発見の論理』勁草書房、2007年、以下『アブダクション』と略記。
2前掲『アブダクション』2頁。
3前掲『アブダクション』39頁。
4前掲『アブダクション』105頁。
5前掲『アブダクション』5~8頁。
6前掲『アブダクション』53頁。
7前掲『アブダクション』68頁。
8前掲『アブダクション』84~85頁。
9前掲『アブダクション』70~72頁。
10前掲『アブダクション』63頁。